このレポートは、かたつむりNo.285[2006(平成18)5.14(Sun.)]に掲載されました

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小学生には負けられない。目指せ、日本百名山!(1)
− 山の科学(1) 気圧 −
運営委員 高 木 茂 行
 
 皆さんは「日本百名山」というのを、知っているだろうか?  山好きの作家 深田久弥(フカダ キュウヤ)さんが日本全国の山を300ほど登り、 その中から100の名山を選定して出版したものである。 この本の魔力にとりつかれ百名山を目指す人は多く、高木運営委員もその一人である。
両神山
図1 両神山(1724m)
下山してへこんだペットボトル
図2 下山してへこんだペットボトル
 ところが、百名山を踏破するには、北は北海道の利尻山から南は屋久島の宮ノ浦岳まで、 日本全国の山を登らなければならない。登るための体力や気力、山行きの時間やお金は並大抵ではない。 だが、驚いたことに、新潟県柏崎市の小学生6年生 大倉由衣(オオクラ ユエ)さんが、 昨年これを達成した。夕方のテレビニュースに取り上げられたのをたまたま見かけたのだが、 高木運営委員はすぐには信じられなかった。翌日(9月24日)の新聞を読み、 幼稚園の年長から登り始めて7年で達成したことを知った。 小学生での達成は日本初という快挙であった。
 そういった話題もあり、これからが山のシーズンでもああるので、簡単な山の科学を紹介。
 まずは、気圧。その前に気圧とは何か?簡単に言ってしまえば、地球に存在する空気の重みだ。 僕たちは、身体の全体に空気の重みを受けている。 空気なんか軽くて力を受けないなどと甘く見てはいけない。 台風の時に受ける風の強さを思い出して欲しい。 生まれた時から気圧の中にいるから気にならないだけで、実は大きな力を受けている。
 気圧を実感するために、こんな実験をしてみた。この5月連休に標高1724m両神山(図1)に登った。 山頂でペットボトルのお茶を飲んで1/4ほど残し、ふたを閉めたまま登山口まで下山した。 もちろん途中で喉は渇くから、別のペットボトルも用意しておいた。 さて、図2は下山した時の写真である。 ペットボトルには山頂での気圧の空気が入っていて、 登山口での高い気圧に押されてへこんでしまっている。
平地でのスナック菓子
図3(a)
平地でのスナック菓子
山頂でのスナック菓子
図3(b)
山頂でのスナック菓子
 ペットボトルがどれくらいへこむか自信がなったので、もう1つの実験も同時に行った。 出発する前に藤沢市内のスーパーで、図3(a)のスナック菓子を買った。 これを空けないまま山頂に持っていった。山頂での写真が図3(b)である。 写真では少し分かりにくいかも知れないが、(a)では袋にゆとりがあるのに対し、 (b)は今にも破裂しそうに膨らんでいた。スナックが製造された平地での気圧が、 山頂のそれより高いため、内部から外に向かって膨らんでいる。
 この2つの実験から、山の高さに応じて気圧が下がることがわかる。 では、どれくらい下がるのだろうか。 平地での標準の気圧は、1013hPa(ヘクトパスカル)である。 これに対して、1000m高くなる毎に約100hPa低くなる。 だから、両神山の山頂では約170hPa下がって約840hPaになっていた。 この170hPaの差で、ペットボトルがへこんだり、スナック菓子が膨れたりしたのだ。 では、日本で1番高い富士山山頂での気圧はどうなるか? 富士山の標高は3776mだから、気圧は約380hPa下がり、平地の2/3になってしまう。  気圧というのは空気の重さと書いてきたが、それは同時に空気の密度でもある。 だから、富士山山頂の空気の密度は平地の2/3しかなく、人間に必要な酸素も2/3になる。 同じ量(体積)の空気を吸い込んでも、その中には平地の2/3の酸素しかなく、息苦しくなったり、 場合によっては高山病になったりする。3000mを越えるような山に登る時は注意が必要だ。
 さて、山で天気が悪くなると雨具を使って、山小屋や登山口まで歩かねばならない。 頂上での美しい景色も見られなくなる。その日の天気はとても重要だ。 次回の「かたつむり」は、天気に関連する雲の話を紹介する。

(つづく)


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