このレポートは、かたつむりNo.286[2006(平成18)6.11(Sun.)]に掲載されました

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小学生には負けられない。目指せ、日本百名山!(2)
- 山の科学(2) 雲の中 -
運営委員 高 木 茂 行
 
図1
図1 オンネトー湖からの雌阿寒岳と阿寒富士(雌阿寒岳は雲でほとんど見えず)

図2
図2 2合目付近の景色

図3
図3 5合目の景色

図4
図4 雌阿寒岳山頂

 藤沢の見晴らしの良いところから北西の方角を見ると富士山、丹沢、箱根の山々が見える。 時には、これらの山頂に雲がかかっていることがある。 ということは、雲がある日に山に登れば、雲の中を経験できるということだ。 雲の中はいったいどうなっているのだろうか?今回はその話。
 昨年の7月に日本百名山の一つである北海道の雌阿寒岳(1499m)を目指した。 朝の天気は雨であったが、天気予報によれば午後には天気が回復するということであった。 午前中は阿寒湖を観光し、11時頃から登る計画とした。
 図1は山に登る前に、雌阿寒岳近くのオンネトー湖から雌阿寒岳を見た景色である。 左側の山が雌阿寒岳、右側の山は阿寒富士である。 この時は、雲が左から右に向かって、かなりの速度で流れていた。 湖付近は快晴なのに対し、目指す左側の雌阿寒岳はすっぽり雲に覆われ、 山に登るのは多少不安であった。 しかし、天気が回復するという天気予報を信じて山登りに挑戦し、 雲の中を嫌というほど経験することになった。
 登山口で登山届けを見ると、この日はすでに何人かの人々が山頂を目指していた。 中には21人のグループ参加もあり、山頂を目指そうという気持ちが湧いてきた。 雨でぬかるんだ登山道を少しずつ登り始めた。 雌阿寒岳は登山道を示す道標もしっかりしていたし、山頂までの道のりが分るように、 1合目毎に標識が示されていた。図2は、2合目を少し超えて所の風景である。 ここではまだ、陽が射していたが、山の上は雲に覆われていた。
 4合目からは少しずつ霧が濃くなり、5合目では完全に霧の中に入った。 湖から見えていた雲の中にはいると、それは霧の中にいる状態だった。 気象の本には、『実は、雲も霧も、霧の仲間の靄(もや)も本質的には同じものである。 …地面についていない、ごく小さい水滴が上空に漂っているものが雲、 霧はそれが地面付近に漂っているものである』と書いてある*。 まさに、その通りだった。
 5合目から先は、ますます霧が濃くなり視界も悪くなった。 7合目からは風が少しずつ強くなり、8合目からは、悪い視界と強い風との戦いとなった。 周囲は灰色で、さすがに心細くなった。悪天候のため下山を考えた時、 先に入山した21人のグループに追いつき、一緒に山頂を目指した。 濃い霧の中で体は濡れ、身体は冷え切っていた。 眼鏡には水滴が次々と付着し何度も拭いても見えなくなった。 ついにはあきらめて、眼鏡を外した。9合目の風の強さは台風並みだった。そして気付いた。 湖からの早い雲の動きは、この猛烈な風で雲が流されているのが見えていたのだ!
 やがて立っているのも困難となり、前かがみの体勢をとって押しだされるように歩いた。 そろそろ限界だと思ったところで、無事山頂に到着した。図4を見れば、その悲惨な状況が分る。 普段なら山頂で休憩するのだが、それどころではなかった。早々と下山を始めた。 9合目、8合目と次々と下って4合目を過ぎると、山頂での霧と風は嘘のようだった。 3合目に到着したところで遅い昼食を取り、登山口まで下山した。
 今回の山登りで、雲の中を存分に体験した。 結論的には、『雲の中にいるのは、霧の中にいるのと同じ。 ただし、地上から雲の動きが見えるような時は相当な風が吹いている』だ。 ところで、どうすれば1回目の気圧の実験や今回の雲の中を体験できるのだろうか。 もちろん山に登ればよいのだが、山登りにはそれなりの経験が必要で簡単には登れない。 ただし、今では道路が整備されて車で高いところまで登れる。 藤沢市の八ヶ岳野外体験教室に泊って299号線を走れば、標高2150mの麦草峠まで登れる。 これは1回目の両神山や今回の雌阿寒岳より高い。天気が悪ければ雲の中も体験できる。
 さて、山に登る最大の楽しみは、平地では見られない美しい景色が見られること。 その中でも尾瀬に代表される高層湿原はとくに美しい。 次回はそのお話。          (つづく)
*村松照男:図解雑学気象のしくみ,株式会社ナツメ社(1998) pp.28-29


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