このレポートは、かたつむりNo.288[2006(平成18)8.25(Fri.)]に掲載されました

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小学生には負けられない。目指せ、日本百名山!(3)
− 山の科学(3) 高層湿原 −
運営委員 高 木 茂 行
 
月山(1984m)
■図1 月山(1984m)
 
阿弥陀ヶ原
■図2 阿弥陀ヶ原
(点在する池は池塘と呼ばれる)
 
尾瀬沼と燧ヶ岳(ヒウチガタケ)
■図3 尾瀬沼と燧ヶ岳(ヒウチガタケ)
 2年前の夏、日本百名山の一つ1984mの月山(図1)に登った。 酒田駅からバスに乗り、月山高原ラインを通って月山8合目が終点であった。 ここから、弥陀ヶ原(ミダガハラ)と呼ばれる高層湿原(コウソウシツゲン)を通り、 霧稜坂(ムリョウザカ)を登って行った。 振り返ると、緑の平原に大小さまざまな池の点在する美しい弥陀ヶ原(図2)が広がっていた。 その美しさに、しばし山に登ることも忘れた。
高層湿原は、上から眺めればその美しさに圧倒され、 歩けば生息する植物の多様さと美しさに目を見張る。 その代表は、なんといって尾瀬ヶ原(図3)だ。 ところで、そもそも高層湿原とは一体何で、どうやってできたのだろう。 高木運営委員はこの分野について苦手なのだが、何冊も本を読んだ1-3)。 その美しさを紹介するとともに、高層湿原についてまとめた。

 高層湿原がどうやってできたか? まず、皆が住んでいる藤沢について考えてみよう。 毎年秋から冬になると、樹木からは葉が落ち、草の多くは枯れてしまう。 しかし、春から夏にかけて暖かくなると土の中の微生物がこれらを分解するため、 落ち葉や枯れ草は無くなってしまう。 もし、春や夏の温度が低く、土がなかったらどうなるだろうか。 植物は分解されることなく、毎年少しずつ積もっていくのではないだろうか?

 高層湿原が形成される場所には水と寒冷な気候があり、そこにはミズゴケなどの水生植物が生育する。 水と寒冷な気候により水生植物は完全に腐ることなく翌年を迎える。 わかりやすく考えるなら、冷蔵庫の中の野菜が腐りづらいのと同じだ。 積もっていった植物は泥炭と呼ばれている。 尾瀬の泥炭は厚みが4.5m以上もあり、 それが形成されるまでには7000〜7600年もの長い年月がかかっている。 気の長い話だ。
 泥炭が積もり続けると、時には水面より高くなることがあり、 水の流れも蛇行してせき止められたりすることがある。 こうして、湿原の中に池が形成される。 池は池塘(チトウ)と呼ばれていて、図2の弥陀ヶ原の写真に点在する池がこれである。 泥炭や池塘により、尾瀬や弥陀ヶ原のような高層湿原独特の地形が形成されていった。

 さて、高層湿原といえば、次に思い出されるのが図4の水芭蕉(ミズバショウ)。 この写真は、5月の終わりに尾瀬で撮影した。 ミズバショウの写真を撮りながら歩いていたら、同じような形で周囲の茶色い植物(図5)を見つけた。 戻って知り合いの人に聞くと「ミズバショと同じ仲間で座禅草(ザゼンソウ)だよ」と教えてくれた。 図鑑で調べてみると、同じサトイモ科の植物で『ミズバショウよりやや乾いた湿地に生える多年草』 と書いてあった4)。 写真を見直すと、確かに、図4のミズバショウは水の中、 図5のザゼンソウは水の少ないところにはえていた。
ミズバショウ
■図4 ミズバショウ
 今回は高層湿原のほんの一端を紹介した。その美しさや、生息する植物の多様さは、 自分の目で見てみないと実感できない。 夏休みにでもこうした湿原に足を運び、自然の美しさ、自然の大切さに触れてみてはどうだろうか?
ザゼンソウ
■図5 ザゼンソウ
 さて、山の科学は3回で終える予定でしたが、原稿を書きながら以前の写真を整理していたら、 雷鳥、氷河地形などまだまだ書きたいことが出てきました。 一方で、8月を過ぎると山のシーズンには終りが近づきます。 この続きは来年の4月以降にと考えています。


1)河内:“尾瀬自然ハンドブック”,自由国民社,1993年
2)世界大百科事典,平凡社,4巻 p265-266,12巻 p371-372,19巻 p63,1997年
3)坂口:“尾瀬ヶ原の自然史”,中央新書928,中央公論社,1989年
4)大場:“ハイキングで楽しむ高原の花”,講談社,P12,1992年


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