このレポートは、かたつむりNo.303[2007(平成19)9.9]に掲載されました[2008/09/15改訂]

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食べるだけじゃなくて覚えよう春の野草(3)
−まさかこれが帰化植物−
運営委員 高 木 茂 行
 
カントウタンポポ
図1 カントウタンポポ
 春の野原で見慣れた景色、黄色いタンポポ、青いオオイヌフグリ、赤紫のヒメオドリコソウ、白いハルジオン。 どこでも見かける草花で、なんの違和感もない。 だけれど、タイムマシンに乗って時間を遡り、江戸時代に春の野原を眺めたらどうなるか?  オオイヌフグリもヒメオドリコソウもハルジオンも見つからない。どうしたことだろう?  実は、これらの草花は明治から大正時代にかけて外国から日本に入ってきた。いわゆる帰化植物だ。 今回は、すっかり春の野原に溶け込んだ帰化植物を紹介する1)
セイヨウタンポポ
図2 セイヨウタンポポ
図3 ソウホウ
オオイヌノフグリ ヒメオドリコソウ
図4 オオイヌノフグリ 図5 ヒメオドリコソウ
ナガミヒナゲシ花 ナガミヒナゲシ実
図6 ナガミヒナゲシ花 図7 ナガミヒナゲシ実
 まずは春の野原で普通に見かけるタンポポ。これには日本古来のものと外国から入ってきたものがある。 それぞれの代表が、カントウタンポポ(図1)とセイヨウタンポポ(図2)。 図3のように、カントウタンポポは総苞(ソウホウ)と呼ばれる花の首の部分が上を向いているのに対し、 セイヨウタンポポは反り返っている1)。 セイヨウタンポポはヨーロッパ原産で、サラダ菜として食べるのを目的に明治時代に日本に持ち込まれた。 春の野原では圧倒的にセイヨウタンポポが多く、カントウタンポポは隅に追いやられている。
 次に、小さな青い花のオオイヌフグリ(図4)。春の野原には必ず咲いている。 野草に興味のない人でも、写真を見れば「これか」とうなずく。 よく見ると花の中央から白い線が放射状に延び、なかなかこったデザインだ。 明治17年に東京上野で牧野先生に記録され、大正時代に全国に広がったらしい。 これほど見慣れたオオイヌフグリが、帰化植物とは驚きだ。
 ヒメオドリコソウ(図5)は赤紫の花の色と姿が独特で、その姿からも日本の野草とは違うという印象を受ける。 ヨーロッパ原産の帰化植物で明治の中頃に入り込んだ。 自分が子供の頃には、この花はあまり見かけなかったような気がする。 時間をかけて広がっているということだろうか。
 そして最後に紹介するのは、最近になって猛烈な勢いで広がった植物。その名は、ナガミヒナゲシ(図6)。 道ばたのちょっとした道路の脇や中央分離帯など所かまわず生えている。 花の大きさ、その色がオレンジという姿が異彩を放つ。原産はヨーロッパということ。 皆さんも見かけたことがあるのでは?  これだけ見かけるからすぐに調べられるだろうと図書館に行ったが、なかなか見つからなかった。 最近になって広がったため、少し古い図鑑には載っていなかった。やっと見つけたその名は、ナガミヒナゲシ。 花が落ちて長い実ができることからナガミ(図7)、そしてヒナゲシに似ていることからナガミヒナゲシ。 強そうな花に見えるが、触ると花びらが落ちてしまう。
 この植物に始めて気づいたのは数年前だった。それから年を追うごとに増えているように感じる。 繁殖力が強く、食べられる外敵も少ないのだろう。 このまま繁殖すると、ナズナやハハコグサのような日本古来の植物は駆逐され、 春の野原はオレンジ一色になってしまうかも知れない。
(終り)
1) 春の野草:永田芳男,山と渓谷社 (2006)




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