このレポートは、かたつむりNo.306[2007(平成19)11.11]に掲載されました[2009/02/01改訂]

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磯は生き物と進化を学ぶ自然の教室(3)
− 殻で身体を守る貝と殻を捨てたイカとタコ いずれも軟体動物 −
運営委員 高 木 茂 行
 
ヒザラガイ
図1 ヒザラガイ
マガキ
図2 マガキ
キクノハナガイ
図5 キクノハナガイ
マツバガイ
図6 マツバガイ
 磯で見かける生き物といえば、なんといっても貝だろう。岩場の潮溜まりには、多くの種類の貝が生息している。 その模様の美しさ、岩の上をゆっくり移動する姿に見とれてしまう。 貝はこれまで紹介してきた系統樹で軟体動物と呼ばれるグループに属している1),2)
軟体動物とは文字通り軟(やわ)らかい身体の動物。ヒザラガイ、二枚貝、巻き貝、イカ、タコが含まれる。 こう書くと『おかしいよ。イカやタコと貝は別のグループだよ』という団員もいるだろう。 でも、イカとタコは同じ軟体動物に分類されている。 その理由は後半で説明するとして、まずは、江の島で見られる貝を紹介しよう3),4)
イワガキ
図3 イワガキ
カラマツガイ
図4 カラマツガイ
アマオブネ
図7a アマオブネ
アマオブネ
図7b アマオブネ
 最初にヒザラガイ。 図1に示すように、貝とは思えないようなグロテスクな形をしている。 ダンゴムシを大きくして平らにしたような印象を受ける。ヒザラガイの身体は8枚の殻で覆われている。 岩から離すと殻の無い側に強く曲がって丸まり、この様子が膝のように曲がった皿に似ていることからヒザラガイ (膝皿貝)と呼ばれる4)。進化の途中で身体が部分的に殻で覆われていき現在の形となった。 比較的原始的な貝と言われている。
 次に二枚貝。これは文字通り二枚の貝で覆われた貝で、 江の島の磯では図2のマガキ、 図3のイワガキが見られる。 カキは2枚の貝の大きさが異なり、一方の貝で岩に張り付いている。 しかし、アサリやハマグリのように、多くの二枚貝の活躍の場所は岩場より砂浜だろう
 さて、磯には図4のカラマツガイのように1枚の殻で身体を保護している貝もいる。 これは二枚貝なのか?あるいは巻き貝なのだろうか?答えは巻き貝だ。 同じような1枚の貝では、図5のキクノハナガイや 図6のマツバガイがいる。 キクノハナガイは中央から白い部分が延び、菊の花のように見えることからの命名なのだろう。 マツバガイは同心円の青い色が鮮やかだ。 いわゆる巻き貝らしいのは図7のアマオブネ。 巻き貝は身体を岩に付けて暮らしているから岩場での生活に適している。 逆に砂に潜って暮らす二枚貝は、砂浜の生活に適している。
 さて、イカとタコの話題に戻る。イカとタコはもともと身体を守るために貝を持っていたが、 素早く移動できるよう進化を続けて今の姿になった2)。進化の途中で貝を捨ててしまった。 その証拠に、コウイカというイカにはコウの部分に貝がある5)。 コウというのはイカの胴体のように見える部分。コウの面積の20%ほどが貝になっている。 一方のタコは身体に貝を残さないほどに進化した。 よく似た例としては、陸に上がって肺呼吸をするようになった動物の中で、 イルカやクジラが再び海に戻っていった例がある。
 身体を守るために殻を身につけたヒザラガイ、砂浜と岩場で生活に適した姿になった二枚貝と巻き貝。 貝を捨てて素早い動きを選んだイカとタコ。 生き残るために様々な工夫を凝らす小さな生き物たちには脱帽させられる。

(つづく)




参考文献
1) フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』: http://ja.wikipedia.org/wiki/
2) 世界大百科事典: 平凡社,21巻,341〜342(1992)
3) 藤沢の自然 編集委員会: みどりの江の島,藤沢市教育文化センター(2004)
4) 奥谷喬司: 海辺の生き物,山と渓谷社,50〜55(1994)
5) 奥谷喬司: WEB版 原色世界イカ図鑑: http://www.zen-ika.com/zukan/index.html

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