このレポートは、かたつむりNo.315[2008(平成20)07.06]に掲載されました

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小学生には負けられない。目指せ、日本百名山(6)
− 富士山の形成と富士登山 −
運営委員 高 木 茂 行
 
富士山
■図1 富士山
富士山の形成
■図2 富士山の形成
新五合目からの富士山
■図3 新五合目からの富士山
九合目付近からの山頂
■図4 九合目付近からの山頂
富士山山頂と三角点
■図5 富士山山頂と三角点
山頂の噴火口
■図6 山頂の噴火口
富士山頂小屋と銀明館
■図7 富士山頂小屋と銀明館
 今年の夏季活動では富士山に行く。富士山を成長させた火山活動と、同時に起きている山の崩壊を実感できる。 そして、富士山は日本で一番高く、裾野を引く美しい姿は多くの人々を魅了してきた。 当然のことながら日本百名山に選ばれている。 富士山が作り出されていった過程を説明し、富士山に登った時のことを紹介する。
 図1の富士山の地図を見て欲しい。富士山の成長の跡は山頂の火口と宝永山の火口だ。 富士山はこれら火口からマグマが吹き出して形成された。 中央の火口が一番高いのはここからマグマが吹き出し富士山を高くしていったことを示している。 一方の宝永火口は、裾野に宝永山の飛び出しを作り出している。 図1で赤い点線が登山道になっていて、途中で山頂への道と宝永山への道へと分岐している。 夏季活動では後者の道を通って宝永山を目指す。
 これまでの調べで富士山は図2のように小御岳火山、古富士火山、新富士火山の3火山 が重なってできたことが分かっている1−3)。 今から30〜40万年前に、現在の富士山の少し北東(山梨)に小御岳火山ができた。 これが富士山の原型となっている。 そして、10万年前になると今後はやや小御岳火山の南東側の中腹が噴火し、古富士火山ができた。 約1万年前になると古富士火山を覆うように新富士火山ができ現在の形となった。 富士山は30〜40万年の長い時間をかけてゆっくりと成長していった。
 こうして成長してきた富士山は、その一方で崩壊が始まっている1−3)。 図1の地図の左側にある大沢崩れは、富士山の一部が崩れている所だ。 1000年間も前から始まったことが記録されており、 これまでに流出した土砂は7500万m3(霞ヶ関ビルの300棟分)という膨大な量である。 崩壊した土砂が落ちてきたら人家は一挙に流されてしまため、災害を避ける施設が作られている。 夏季活動では、大沢崩れからの被害を守る施設の説明を詳しく聞ける。
 さて、最後に富士登山について紹介する。 富士山に登ったのはもう20年近くも前になり、今では状況もだいぶ変わっている。 季節は10月の初めで、天気予報では1週間前に富士山で初冠雪があったことが報じられていた。 静岡側の新五合目から図1の点線で示される登山道を登った4)。 図3はその五合目駐車場から富士山を眺めた写真。富士山の雄大の姿を間近に見ることができる。 遙かかなたに山頂のレーザドーム(いまは富士山測候所)**が見えている。 また、雲のかかった右側の凹みが宝永火口で、写真からもその大きさが想像できる。
 多くの山では登りと降りを繰り返して山頂を目指すが、富士山は登山道をひたすら登る。 六合目あたりから霧に包まれ、雲の中に入った。 さすがに季節外れで他の登山者にも会うことなく、雲のガスで視界が遮られるなか七合目、八合目と登った。 それまでの登りと薄くなった空気で疲れがどっと出て、薄い空気に体をならしながら、ゆっくりと頂上を目指した。
 八合目を超えたところで雲の上に出て視界が開け、目を上に向けると図4のように山頂とレーザドームがはっきり見えた。 なかなか近づかない山頂を恨めしく思いながら登り続けると、ついに富士山山頂だ(図5)。 山頂は下からは想像もつかないくらい巨大な火口で、うっすらと雪が積もっていた(図6)。 草も木もない荒涼とした風景だ。下を見ると富士山山頂小屋と銀明館が小さく見える(図7)。 山頂の周囲は雲に覆われ、他の山を見ることはできなかった。 しばらく山頂で休み、登頂を果たした充実感に包まれながら同じ道を下山した。
 夏季活動で富士山に行ったら、富士山を成長させた火口群と巨大な宝永火口、崩壊を続ける大沢崩れを見て欲しい。 また、五合目からは雄大な富士山と山頂を眺め、いつか機会が合ったら富士登山にも挑戦してみて欲しい。 富士山を知れば、地球の持つ巨大な力を感じることができる。(つづく)


*最近の調査では、小御岳火山の前に先小御岳火山があったことが調べられていますが、多くの本では3火山になっています。

**レーダードームは1964年に気象観測用に設置されました。 気象衛星の発達により山頂でのレーダー観測は必要性をなくし1999年には廃止となりました。 測候所は2004年に無人化され現在も観測が続けられています。 廃止されたレーダードームは富士吉田市のレーザドーム館に展示されています。


参考文献
1)小泉武栄:山の自然学,岩波新書541,岩波書店,104〜112(1998)
2)田代博,藤本一美,清水長正,高田将志:山の地図と地形,山渓登山学校シリーズN,山と渓谷社,219〜225(1996)
3)木村正昭:富士山も危い?!,天山出版,37〜41,183〜189(1991)
4)川崎吉光:東京周辺の山350,292〜295(2001)




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