このレポートは、かたつむりNo.320[2008(平成20)11.16]に掲載されました

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錦織選手の活躍にホレボレ!
テニスで学ぶ力と運動の科学(1)
− ラケットからボールに加える力の3要素 −
運営委員 高 木 茂 行
 
図1 図2
■図1 ■図2
 テニスの全米オープンが8月から9月にかけて行われた。 全米オープンは1年間に4回行われる世界トップレベルの試合の一つで、サッカーでいうワールドカップのようなもの。 この大会に日本の錦織(ニシコリ)選手が出場し、4回戦まで勝ち進みベスト16入りを果した。 5回戦で敗れベスト8進出は逃したものの、日本人としては1937年以降、71年振りの快挙だ1)。 若干19才の錦織選手の活躍には胸が躍る。
 錦織選手のレベルは無理だけれど、テニスをやっている誰もが少しでも上手くなりたいと願っている。 そこで僕ら科学少年団としては、テニスを科学して上手くなることを考えよう。 テニスは基本的には、ラケットにボールを当てて相手のコートにボールを返すスポーツ(図1、2)で、 これに役立つのが力や運動に関する科学だ。今回のかたつむりでは3回にわたってテニスをモチーフに、 力、運動、エネルギーを取り上げる。
図3
■図3
 1回目はテニスの中では動作が単純なボレーで、力の3要素について調べる。 ボレーはネットの近くに立って、ラケットにボールを当てて相手のコートに打ち返す技術(図3、4)。 テニスでは、コートの後ろに立って1回バウンドさせてボールを打ち返すストロークと、 ネットの近くに立ってバウンドなしで直接ボールを打ち返すボレーが基本プレーだ。
 ボレーでは、どちらにラケットを向けるかでボールの飛ぶ方向が決まる。 また、どのくらいの勢いでラケットに当てるかでボールの速度が決まる。 さらに、ラケットのどこに当てるかで飛び方が変わってくる。 ラケットの中央のネット部分(ガット)に当てれば良く飛ぶし、 端の枠(フレーム)に当たれば中央ほどの飛びは期待できない(図2)。 飛ぶ方向を決めるが@力の向き、飛ぶ勢いを決めるのがA力の大きさ、当たる場所がB力の作用点である。 @、A、Bを合せて力の3要素という。科学で力というのは『2つの対象で影響を及ぼしあう作用がある時、 その作用を力という。』で2),3)、テニスではラケットがボールに影響を及ぼすのが力である。
 力は目に見えないので、そのままではわかりづらい。そこで、図5のように力の3要素を矢印で表現する4)。  矢印の向きが@の力の向き、矢印の大きさがAの力の大きさ、ラケットと矢印が接している位置がBの力の作用点という具合だ。 ボールを飛ばす方向が変わった時は(a)のように矢印の方向が変わり、打つ力を大きくした時は(b)のように矢印を大きくする。 ボールが上手く当たらずラケットの枠に当たったときには(c)のように矢印の位置を変えればよい。
図4 図5
■図4 ■図5
 力の3要素というと難しい科学のような気がするけど、テニスのラケットとボールを思い出せばよい。 野球が好きな団員はバントの時のバットとボール、サッカーが好きな団員はボールとそれを蹴る足をイメージすればよい。 力を表す矢印はベクトルという名前で呼ばれ、高校の時に数学的な扱いを習い、大学ではベクトルを使った力学を学ぶ。 力を表す大切な考えだ。さて、次回はテニスについてもう少し説明し、ボールの動き(運動)について考える。
(続く)

参考文献
1)http://ja.wikipedia.org/wiki/:  フリー百科事典『ウィキペディア』,錦織圭
2)http://ja.wikipedia.org/wiki/:  フリー百科事典『ウィキペディア』,力
3)志村史夫:いやでも物理が面白くなる,ブルーバックス,講談社,149〜152(2001)
4)北村俊樹:高校物理の基本と仕組み,秀和システム,40〜44(2004)



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