このレポートは、かたつむりNo.321[2008(平成20)12.7]に掲載されました

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錦織選手の活躍にホレボレ!
テニスで学ぶ力と運動の科学(2)
− ストロークによるボールの等速運動 −
運営委員 高 木 茂 行
 
テニスでの試合の流れ
図1 テニスでの試合の流れ
テニスコート
図2 テニスコート
ストローク1
図3 ストローク1
ボールをラケットに引きつけ前に打ち出す
ストローク2
図4 ストローク2
打ち出した後の振り抜きが大切
 テニスについて知らない団員も多いと思うので、テニスというスポーツについて簡単に説明する。 テニスの試合には2対2で試合をするダブルスと、1対1で試合をするシングルスがある。 ダブルスの場合、試合の始めは図1のように人がコート上(図2)の位置に着く。 最初に(a)が相手コートに向けてボールを打つ(@)。これがサービスだ。 対角線上の(c)は、1回バウンドしたボールをAのように打ち返してレシーブする。 (a)は戻ってきたボールをBのように1回バウンドさせてストロークで打ち返す。 (d)はこれをネット近くで直接ラケットに当ててCのように打ち返す。前回紹介したボレーだ。 (d)が打ったボールはコートぎりぎりに入り、(a)は返すことは出来ない。(c)、(d)側の得点となる。 テニスのゲームは、@のサービスとAのレシーブは必ずあるが、その後はボレーで返してもストロークで返しても良い1) 図2で、黒丸はボールがバウンドした位置を、点線はバウンドしたあとのボールの動きを示している。
 ここで、ボールを1回バウンドさせて打ち返すストローク(図3、4)について考える。 ストロークでラケットから離れたボールは、しばらくは同じような動きをするだろう。 ラケットから離れた直後とネットの手前ぐらいまでは、同じ方向に同じように飛んでいく。 しかしながら、ボールは次第に遅くって下に向かって飛ぶようになり、コートに落ちでバウンドする。 次第に遅くなるのは空気の影響を受けるからで、下に向かうのは重力の影響を受けるからだ。 重力というのは地球上の物が地球に引っ張られる力で、すべての物は低いところに向かって落ちる。 もし、空気と重力がなければ、ボールは同じように飛びつづけるだろう。
 ここまでの説明で“同じように”と言ってきたが、科学の世界ではこれを等速運動と呼ぶ2),3)。 速度とは移動した距離を移動した時間で割ったもので、移動の速さを表す量である。 等速運動というのは一定の速度で移動すること。速度を式で書くと次のようになる。
速度=移動した距離÷移動にかかった時間
簡単な例で考えてみよう。 3人兄弟が科学少年団の活動に参加するため、自宅から4km離れた藤ヶ岡中学に行くことになった。 長男(A)はバスで15分(0.25時間)、次男(E)は自転車で30分(0.5時間)、三男は歩いて60分(1時間)かかった。 それぞれの速度は、(A)は4km÷0.25時間=16km/時間、(B)は4km÷0.5分=8km/時間、 (C)は4km÷1時間=4km/時間となる。km/時間が速度の単位だ。 速度に直すと、バスは歩きより4倍、自転車は歩きより2倍速いことが分かる。
さて、テニスの話に戻ると、ストロークでのボールの速度は一般の人の場合、80km/時程度で、市街地を走る車より速い。 この速いボールを捕らえて相手のコートに返すのだから、素早い判断と動きが必要だ。 そこで考えるのは、ボールの速度はラケットから離れるとともに少しずつ遅くなるが、大部分は等速運動であること。 相手がボールを打った瞬間に『等速運動』を頭に浮かべて動きを予測し、自分が打ちやすい位置に移動すればよい。 単純に練習するよりは、上達が早まるだろう。 さて、次回はテニスの中でも速度の速いサービスでエネルギーについて考える。(つづく)

参考文献
1) http://zerokara-tennis.com/column060.html:  0からテニス上達法!−ストロークの振り遅れ
2)志村史夫:いやでも物理が面白くなる,ブルーバックス,講談社,149〜152(2001)
3)北村俊樹:高校物理の基本と仕組み,秀和システム,40〜44(2004)



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