このレポートは、かたつむりNo.322[2009(平成21)1.17]に掲載されました

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錦織選手の活躍にホレボレ!
テニスで学ぶ力と運動の科学(3)
−サービスされたボールのエネルギー−
運営委員 高 木 茂 行
 
サービス
図1 サービス
 前回のかたつむりで説明したようにテニスのプレーはサービスで始まる。 左手でボールを上げ、そのボールを右手のラケットで打ち降ろし、相手のコートに入れる(図1)。 ボレーやストロークは相手からのボールを打ち返すので、相手の動きの影響を受ける。 これに対してサービスは、ボールを上げて打つところまですべてが自分のペースでできる。 練習の結果がそのまま反映される技術となっている。
 サービスで打たれたボールで仕事とエネルギーについて考えよう。まずは仕事について。 仕事というと大人が会社に行くこと思い出すかもしれないが、科学でいう仕事は少し違って、 あるものに力を加えて力の方向に動かすことを言う。仕事は次の式で求められる1)

仕事(ジュール) = 力(ニュートン)×力の向きの移動距離(m)    (1)

電池を持ち上げる
図2 電池を持ち上げる
仕事の例として、図2のように単一の電池を上に1m持ち上げることを考える。 物を動かすのが力で、身近な例としては電池100gを持ち上げる力2)がおよそ1Nとなる*。 物を持ち上げるための力は重さに比例するので、1kgの物を持ち上げる力はおよそ10Nとなる**。 移動距離が1mなので、仕事は1N×1m=1J(ジュール)となる。仕事の単位はJと書いてジュールと呼ぶ。
 次に、科学では仕事ができる能力を持っていることを、エネルギーを持っていると言う。 図3でスポンジの上に置かれた箱に、電池を落とすと箱はスポンジの中に入り込む。 すなわち、持ち上げられた電池は箱を移動させるエネルギー持っている。 同様にサービスされたボールも箱に当たって箱をスポンジの中に動かせるので、エネルギーを持っている。 ボールが持っているエネルギーは、次の式で計算できる3)

ボールのエネルギー(J) = 0.5×重さ(kg)×速度(m/s)×速度(m/s) (2)

電池による仕事
図3 電池による仕事
テニスボール
図4 テニスボール
エネルギーの単位には仕事と同じJ(ジュール)が使われる。テニスボール(図4)の重さは約0.05kg(50g)で、 ボールの速度は普通の人なら30m/s(1秒間に30m移動し時速では約100km/時)くらいなので、 そのエネルギーは0.5×0.05kg×30m/s×30m/s=22.5Jとなる。単一電池を22.5m持ち上げるのと同じエネルギーということがわかる。
 エネルギーのことを頭に入れて、サービスについて改めて考えてみる。テニスをやる人なら誰でも早いサービスを打ちたいと考える。 (2)のエネルギーの式では、速度が2回かけ算していることに注目して欲しい。 サービス練習を重ねてボールの速度が、プロ並みの時速約60m/s(時速200km/m)になったとする。同じようにエネルギーを計算すると、 0.5×0.05kg×60m/s×60m/s=90Jとなる。速度が2倍になると2倍×2倍で4倍になる。 少しでもボールの速度が大きくなれば、その効果は速度×速度で急激に大きくなる。 練習量を増やし、少しでも早いサービスが打てるようになることの重要性が実感できる。
 さて、3回にわたってテニスと力、運動、エネルギーについて説明してきた。 これは、野球、サッカー、バスケットボールなど他の球技でも同じだ。 科学のことを考えながら練習すれば、きっと上達は早くなるだろう。
(終わり)

*正確には100gの電池を持ち上げる力は0.98N,            **正確には1kgの物を持ち上げる力は9.8N

参考文献
1)北村俊樹:高校物理の基本と仕組み,秀和システム,62〜63(2004)
2)北村俊樹:高校物理の基本と仕組み,秀和システム,40〜41(2004)
3)北村俊樹:高校物理の基本と仕組み,秀和システム,70〜71(2004)



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