このレポートは、かたつむりNo.339[2010(平成22)4.4]に掲載されました

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身近になったぞ! 地球にやさしいエコカー(4)
− 水素を使ったエコカー −
運営委員 高 木 茂 行
 
燃料電池の構造
■図1 燃料電池の構造
スズキの燃料電池車
■図2 スズキの燃料電池車
車に積まれた燃料電池
■図3 車に積まれた燃料電池
ホンダの燃料電池車
■図4 ホンダの燃料電池車
 これまでに、エンジンとモータを使うハイブリッド車(HV)、モータだけで動く電気自動車(EV)を紹介してきた。 それ以外に注目されている方式としては、水素燃料を使った自動車がある。水素を燃料として電気を発生し、モータで走る方式である。 HVのようにガソリンを燃やしてCO2が発生することもなく、EVのように電池を充電する必要もなく走行距離も長い。 実用化されれば、理想的な車となる。
 水素を使った自動車で、水素から電気を起こす装置は燃料電池と呼ばれている。水に電気を流すと、水素と酸素とに分解することができる。 理科の実験でよく知られた電気分解である。これを逆に行い、水素と酸素をゆっくり結合させて電気を取り出すのが燃料電池である。 イギリス人のウィリアム・グローブが、1824 年に最初の燃料電池を開発し1,2)、 アメリカの化学者トーマス・グラブが固体高分子型というタイプを開発したことで実用化が始まった。 1965年には、アメリカで打ち上げられたジェミニ5号で電気を起こす発電機として使われた1,2)。 ロケットは水素と酸素を燃やしながら宇宙を飛んでいくが、同じ燃料から電気も作れるというわけだ。
 自動車に使われる燃料を電池は、図1のような構成をしている。水素と酸素を単純に混ぜるといたるとこで反応が起きて上手く電気を取り出せない。 水素と酸素を分離し、負極では水素のみが反応し、水素と酸素の結合は正極で起きるようにするのが高分子電界質膜である。 燃料電池の性能は高分子電界質膜の分離性能に依存しいて、優れた膜が開発されたことで実用化が進んできた*。 自動車につまれる燃料電池はFC(Fuel Cell)と呼ばれ、燃料電池車はFCV(Fuel Cell Vehicle)と呼ばれている。
 図2はスズキが開発している車で、車体には水素を表す原子記号の『H2』と燃料電池車を示す『Fuel Cell Vehicle』が描かれている。 この車の前の部分には、図3のように『Fuel Cell System』と書かれた燃料電池が積まれている。 図3はホンダが開発している燃料電池車クラリティである。水素を一度充填すれば620kmの走行が可能で、最高速度は時速160kmである。 2008年から日本とアメリカでリース販売され、お正月恒例の箱根駅伝では2009年と2010年に大会本部の車として使われていた3)
 水素を使った燃料電池車は、HVとEVの欠点を解決してくれる理想的な車だが、問題は水素の供給である。 ガソリン自動車が全国を走り回れるのは、ガソリンスタンドがどこにでもあり、何時でも給油できるからだ。 HV車がスムーズに普及している理由の一つは、全国に広がったガソリンスタンドのおかげだ。 EVを普及させるためには電池を充電するための電源が必要だが、充電時間さえ気にしなければ家庭のコンセントが使える。 これに対して燃料自動車を全国どこでも乗れるようにするためには、全国に水素スタンドを作る必要がある。 今後、どやってスタンドを広めていくかが課題だ。
 さて、環境にやさしいエコカーを4回に渡って紹介してきた。最近は地球環境に対する意識が高くなり、HVや燃費の良いエコカーが売れているという。 今後、より性能の高いエコカーが開発され、普及することを期待したい。
(終わり)

*燃料電池の動作をもう少し詳しく説明します。導入された水素は負の電極(白金)と反応して水素イオンH+となります。 この反応は白金の触媒作用と呼ばれています。水素が水素イオンH+に変わる時に電子し、これが電気となって流れます。 水素イオンは高分子電界質膜を正極に向かって移動し、負極が側から放出された電子と酸素と出会い、水を生成します。


参考文献
1)小林英夫,大野陽男,湊清之:環境対応 進化する自動車技術,日刊工業新聞,P44〜64(2008)
2)御堀直嗣:電気自動車が加速する!日本の技術が拓くエコカー進化形,評論社,P109 〜 184(2009)
3)ホンダHP: http://www.honda.co.jp/FCX/


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