このレポートは、かたつむりNo.353[2011(平成23)4.3]に掲載されました

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東日本大震災の影響は?
− 目に見えない放射線、科学的なデータで納得しよう −
運営委員 高 木 茂 行
 
昨年6月のかたつむりを最後に、学位取得に集中するため、かたつむりの原稿を中断していました。 大学の先生の懇切丁寧な指導のおかげで、3月26日に理学博士の学位を授与させていただきました。 かたつむりへの復帰を検討していましたが、震災に関する記事からスタートとなりました。 今後ともよろしくお願いします。


■図1 大気中の放射線量(3月31日)

■表1 大気中の放射線量(3月31日)
4月1日 朝日新聞の7面

■図2 ヘリウム原子の電離
 3月11日の14時46分に発生した「東日本大震災」は、震源から遠く離れた藤沢市にも大きな影響を与えています。 牛乳やミネラルウォータといった食料品、ガソリンや電池といった日常品が不足しています。 3月には計画停電が行われ、電気の無い生活に不便を感じた団員も多いでしょう。
 そしてもう一つ、福島第一原発の事故です。これは目には見えない放射線が問題になっています。 藤沢市は放射線の影響をどれくらい受けているのでしょうか? 今回は、マスコミで取り上げられている放射線やマイクロシーベルトといった単位について考えてみましょう1),2)

 詳しい説明に入る前に、まずは結論です。 現在のところ、藤沢市では人体に与える影響を与えるほどの放射線は飛んできていないと考えられます。 図1と表1は4月1日の朝日新聞の朝刊7面の記事です3)。 神奈川の放射線は、平常の最大値が0.069マイクロシーベルト(μSv)/毎時に対して3月31日は0.07μSv/毎時、 同じく茅ヶ崎市も0.07μSv/毎時と通常と大きく変わっていません。 放射線の人体への影響やμSvについては後で説明するとして、ほとんど影響のない値です。 これに対して、福島第一原発近くの浪江(赤字木)では38μSv/毎時、浪江(下津島)では13.2μSv/毎時と高く、 原発事故の影響を受けていることが分かります。

 次に、東京都の水や茨木県のホウレンソウで見つかったベクレル(Bq)と言われる放射能はどうか?ということになります。 これについては、一年間の蓄積量を基準とする考えですので、毎日食べたり飲んだりしない限り大丈夫です4)。 基準値を超える水や野菜を1年間毎日(1年間は250日に相当)取り続けると、人体に影響が出るかも知れないという値です。

 さて、話をもとに戻し、放射線、μSv、人体への影響について以下に説明します2)

 (1)放射線: 本やホームページ(HP)で調べると 「電離性(デンリセイ)を有するエネルギーを持った電磁波や粒子線のこと」1),2)と書かれています。 これだけでは何を言っているのかよく分かりません。まず、電離というのは原子から電子を取り去ることです。 図2はヘリウム原子に放射線が当り電離する現象を示しています。原子に放射線が当ることで原子内のエネルギーが増えて電子を放出します。 電子が少なくなった原子はヘリウムイオンと呼ばれています。分かりやすくいうと、
 放射線とは原子や分子の構造を変えることができるほどのエネルギーを持った光や電波の一つ、となります。

 (2)放射線の単位:
 放射線は目に見えないので、量を表すのに放射線の持つエネルギーを使います。 単純に放射線の持つエネルギーで表すのがグレイ(Gy)、人体への影響を考慮した単位がシーベルト(Sv)です。 福島第一原発の事故では人体への影響が重要ですのでSvが使われます。
@グレイ(Gy):
 放射線の量は、単位質量当りの物質が放射線によって吸収したエネルギーの量で表します。
 1グレイ=1J/kg
 で、重さ1kgの物質が1J(ジュール)のエネルギーを持った放射線を吸収するのが1グレイです。 1Jはエネルギーの単位で、1mの高さにある100gの物(例えばリンゴ)が落ちた時のエネルギーです(正確には0.98J)。 わかりやすく言うと、1kgの板の上に高さ1mから100gのリンゴを落とした時に、板が受けるエネルギーに相当するのが1グレイです。
Aシーベルト(Sv):
 放射線にはいろいろな種類があります。同じ1グレイの放射線を受けても、体の感じ方は異なります。 人体への影響を考慮し、グレイに放射線荷重係数という値をかけたのがシーベルト(Sv)で4)
 Sv=放射線荷重係数×Gy
です。健康診断で使われるX線では放射線荷重係数は1と定義されています。1グレイのX線は、1Svとなります。
Bミリ(m)とマイクロ(μ):
 基準に対して1000分の1をミリ、ミリの1000分の1をマイクロ(μ)で表し、小数では0.001がミリ、0.000001がマイクロとなります。 人体への影響はmSvで表しますので、これを基準にすると
 1000μSv=1mSv=0.001Sv
となります。

(3)人体への影響:
 放射線は原子力発電のように人工的に作られなくても、自然界にも存在します。 1人の人が1年間に自然環境から受ける放射線は2.4mSvです。 ということはこれくらいの量を受けても人体への影響はないことになり、 一般公衆が1年間にさらされて良い人工放射線の限度も1mSvと決められています。 人間ドッグなどで受診するCTスキャンは1回で6.9mSvの放射線を浴びますから、基準値はかなりきびしく決められていることがわかります。
 さて、先ほど朝日新聞にあった放射線量ですが、神奈川では3月31日が0.07μSv/毎時となっています。これを一年受けたとすると、
 0.07μSv/毎時×24時間×365日=613μSi=0.613mSv
となり、問題のないレベルであることが分かります。

 以上、藤沢市の放射線について説明してきました。 今回の記事を読んでいただき、福島第一原発からの放射線に対する不安が少しでも解消されれば幸いです。 また、福島第一原発の事故が速やかに終息し、被災地の皆さんの生活が一刻も早く復興することを期待します。


参考文献
1)大塚正利:“エックス線作業主任者受験読本”,オーム社 (1988)
2)フリー百科事典ウィキペディア:http://ja.wikipedia.org/, “放射線”
3)4月1日朝日新聞,7面
4)フリー百科事典ウィキペディア:http://ja.wikipedia.org/, “シーベルトとグレイ”

(神奈川県ホームページの「県内で生産された農畜産物の放射能濃度について」(2011年3月25日更新以降)も合わせて参考にして下さい。)


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