このレポートは、かたつむりNo.483[2020(令和2)05.10(Sun.)]に掲載されました

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カオス理論〜エドワード・ローレンツのしたこと〜(3)
運営委員 山田 佳子
 
 カオス理論の最終回です。前回のかたつむりではローレンツが『でたらめさという仮面をかぶった秩序』という幾何学的構造を発見したところまででした。 今回はそれがどうすごいのかです。
 自然界は計算できないことがたくさんあります。いろいろ計算をして予想を出しても、その通りにならないことの方が多いです。 カオス理論が誕生する前は、物理学者は物事を単純にすれば、計算で動きを予想することができると考えていました。 けれどローレンツはそれができないという結論を出しました。物事は単純ではなくて、いろいろなことが複雑に絡み合っているからです。 何かひとつのことを正確に知ることができても、別の要素を入れるとそのことによってはじめの要素に変化が起きて答えが変わってしまいます。 さらにまた別の要素が加わると、もっと変わってしまいます。現実ではさらにいろいろな要素が加わることになります。 そうなると計算をして予想することはできません。
 空を見上げて「雲が厚くなって暗くなってきたから雨が降りそうだ」というのは、これまでの経験などから導き出す天気予報です。 これを数字で表すのは難しいです。ローレンツはこれを非線形の方程式にして、カオス理論という考え方の基礎を作りました。 物事を細かく分けて考えずに、大きくまとめる形の方程式を考えたのです。
 ローレンツは、農家のおじさんのような顔をしていました。そして、目をキラキラ輝かせていつも笑っているように見えたそうです。 普段から人の話をよく聞いて、けれど、話をしながら遥か宇宙の果てまでも空想を巡らせているようなところがあったそうです。 彼は普段からいろいろな物を見て感じていました。 だから、パソコンが計算した失敗に見えるデータを見て、直感で「これは大切なことだ」と気づきます。 そして、それまでの学者の考え方に待ったをかける発見をしました。
 ローレンツは気象学者の衣をまとった数学者だっただそうです。だからこれらの発見をできたとも言えます。 はじめのうちはこの発見は気象学者にも数学者にも理解してもらえなかったそうです。 しかも発表も『大気科学ジャーナル』という雑誌で、この発見を必要としている人の元へ届かなかったようです。 けれどその後は、どの分野にでもカオスについて考える人が出てきました。 ひとつの分野に限らず、どこにでも当たり前のようにローレンツの考えたモデルは隠れていました。
 ひとつの分野を掘り進めることも大切です。でも、新しい発見は、誰も通ったことがない道にあるのかもしれません。 みなさんも広い視野でいろいろ考えてみてください
参考図書:カオス−新しい科学をつくる,ジェイムズ・グリッグ著,大貫昌子訳,新潮文庫,1991

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