図書館で新しく入荷した本を追ううち、標題の「極限に生きる植物」という本を見つけて借りてみました。
内容は富士山をはじめとする日本の高山植物に続いて、世界各地の高山に見られる珍しい植物を写真入で紹介した希少な本でした。
一度根を下ろしたら、一生その場所で生き抜かなければならない植物が、いかにして高山のようなきびしい環境で暮らすのか、
わかりやすい解説に興味をひかれました。以前、タイトゴメという江の島の海岸断崖に生える、
これも一種の「極限植物」について書いたことがあるので、私たちの身近に見られる「極限植物」について、
思いを走らせてみました。昨(H26)年6月、湘南緑の連絡協議会のHさんに依頼され、江の島の海岸植物を案内しました。
残念ながら、現在の江の島は、昔のような自然そのものの状態ではないので、
海岸断崖植物群落を手に届く距離まで近づいて観察することはほとんどできません。
残っているところを探してどこへ行っても20〜30mの距離ぐらいしか近寄れない場所にしか、
純粋の自然群落は残っていないわけです。(ただ一箇所、西浦海岸では2〜3mまで近づける所があります。)
15年位前、江の島の海岸植物を紹介するために、写真を撮りに行ったときのことです。
今のように、江の島に大勢の人が押しかけることのない時代でしたから、ヨットハーバーの南側防波堤の先から、
岩ばかりの島の南岸には、危険を承知の釣り人以外に人はいませんし、崖よりに縄を張って立入禁止の標示などは、ありませんでした。
山二つの切れ込みの手前に大きく崩れた岩が積み重なっているあたりには、小規模ながら、自然のままの海岸断崖植物群落が見られました。
そこには、ハマボッス、ラセイタソウ、ボタンボウフウなど、イソギク−ハチジョウススキ群集を代表する植物がすべて集結して、
見本園のような風景でした(今ではごく一部に縮小した上、立入禁止になっています)。
やむを得ず、断片的に生き残る海岸植物を探すことにしました。できたばかりの新江の島ヨットハウス手前の門扉は開放されて、
聖火台の先のセンタープロムナードの松並木の根元の植え込みにはハマヒルガオをはじめ、さまざまな海岸砂丘植物が元気に育っています。
女性センターに向かう道路は、潮風に強いシャリンバイとハマヒサカキの植栽で、そこにはトベラが割り込んで成育し、
スカシユリやイソギクが混生しています。その植栽帯と舗装との境目には、タイトゴメが帯状に列をつくって自生し、
舗装タイルの上まで張り出しています。稚児が渕の断崖をつくる岩の上には、今でもわずかに自生が見られますが、
人通りの多い歩道の足元に、これほど大きな群落ができているとは、私にとっては大きな発見でした。
しかし、これはどう見ても、雑草化してかろうじて生き残っているとしか思えません。
半世紀前の江の島では、稚児ヶ淵の岩上には、タイトゴメの群落が広がって、5〜6月の花期には黄色い花が目立ちました。
しかし、今では、潮風の吹きつける路上にわずかに生き残る有様です。
しかし、見方を変えれば、これも極限の環境(強風、波浪、乾燥という自然の極限から少し緩められた分、
人為の干渉を強く受けた状態)で生きている植物であることに間違いありません。こうしてみると、人間の生活そのものが、
いたるところで植物に極限状態を強制していることがわかります。身近な、雑草の生活が、その生きた見本であることが理解できるでしょうか。
かたつむり403号(H26年9月)で紹介した
オヒシバ群落もその1例です。
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